venerdì 26 aprile 2013

ドロミーティ・アルプスを歩く (1)

宇都宮 和代

(1)

南欧の夏は暑い。乾いた夏だ。旅にいい季節とは言いがたい。それでもしゃにむに歩いた夏の記憶は十指にあまる。日陰ばかりを選んで歩けるならいいが、もちろんそうはいかない。刺すような真夏の太陽が遠慮会釈なく肌を直撃して、日本人旅行者なら、特に年配者なら十中八九は被っている帽子の類は役には立たず、ハッと気が付いたときには、くっきりと色分けされた肌を恨めし気に眺めるハメになる。半日でこのザマだ、信じられないこの縮緬皺!おまけに皺だけが白いぞ!などと鏡を見て嘆いても後の祭り。なのに、こちらの女たちといえば、シミや雀斑など勲章ものと思っているのか、いまだに肌を焼くことをよしとするのだから理解の外だ。そしてあの、イタリア半島の長靴型をすべて真っ赤に染めて示すあのテレビ画面!そう、このとてもわかりやすい天気予報は、見る者に酷暑の実感を増幅させて余りある。「今日のPenisola(イタリア半島)は山の中でも暑い」ーアナウンサーの解説はため息にも似る。「暑いけど我々はせっせと働いているのだ、えらいだろう!」と言わんばかりだ。

それでなくとも一年中「ヴァカンツェ」について語るのを好む彼の地の人々は、当然のこと、暑さの訪れとともに町から逃げ出すのをよしとする。逃げ出せるだけの経済力のある人だけなのは、もちろんだ。行き先は?海か、または山がいい。それでも、こうしたヴァカンス文化のことをただ知識として抱えているのと、実際に“触れてみる”のはやっぱり違う。われら東洋からやって来た旅人が、さほど高所とも言い難い山の中の、しかも長期滞在者用の宿で、何をするでもなく静かに過ごす彼の地の年配者たちといささかでも触れ合う機会を持てるようになったのは、こちらも年を取り、時間もでき、山を好み、かつあちこち周遊すると疲れてしまうので、滞在型の旅を選ぶようになったがための、自然の成り行きといえる。

Dolomiti こんな山々ばかりが延々と…
おととしはアオスタ渓谷(Valle d’Aosta)に、そうして昨年夏はドロミーティ・アルプス(Alpi Dolomitiche日本ではドロミテ山塊とも呼ぶようだ)に出かけた。どちらも北部国境に接した山岳地帯である。イタリアは陸続きの四ケ国とは主にアルプス山脈をもって国境線とし、前者は「中央アルプス」(Alpi Centrali)、後者を東部アルプス(Alpi Orientali)と呼んで区別する(ちなみに南仏に接する西側は西部アルプスAlpi Occidentaliという)。「いつか、イタリア・アルプスの山に行きたい!行くぞ!」と決心してから、思えば随分と時が経った。最初に情報をくれたのは、他でもない、語学学校の教科書である。以来、時間はすでに十分過ぎるほど流れてしまったので、そうして、明日の日々となると、果たしていつ迄からだが動いてくれるか知れたものではないので、だからはるばる出かけた理由はこの二つになる。いや、もう一つあった。NHKなど、特にBS番組は旅への、そして山行きへの憧れをいやが上にも掻き立ててやまないが、この番組に出演した若い女性作家の紀行文をたまたま読んだのが、ドロミテ行き決行の直接の動機である。若いとはいえ、その作家にそれ以前の登山経験はない。対するこちとら、古稀を迎えたばかりの年配者とはいえ、低山歩きの経験ならリタイア後は遥かに場数を踏んでいる。山頂に立とう、なんて欲を出さなければ、なんとかなるだろう。

2012年盛夏、聖母被昇天日(Ferragosto=815日)の翌日、パリを発った。郊外のボヴェ空港(A. Beauvais)からは格安で飛べる。到着したのはヴェネチア(Venezia)に近いトレヴィーゾ(Treviso)空港。運賃は往復で240€。格安航空会社の存在は近頃では日本でも話題だが、旅先ではほぼ6年ぶりのチケット取得だったので、いろいろ油断があった。荷物の重量(かつ容量)制限が厳しさを増していて、しかも書類上の不備も重なって割増料金を払うハメになり、トータルで400€弱の出費。グラン・シニアの旅だし、これしきのこと、仕方がないだろう。今回は仲間のフランス人との二人旅で、平均年齢が73歳。ドロミーティ・アルプス7泊8日のトレッキング旅行は、航空券のほか、レンタカー(一週間で153€)、宿泊費(後述)等、総費用は一人当たり970€(約10万円)。折からの円高が幸いしたわがプチ・ヴァカンスを些か語ってみたいと思う。いちいち費用を書くのは、“私も行こう”と思うかもしれない誰かの参考になれば、と思うせいで、他意はない。

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