giovedì 2 maggio 2013

ドロミーティ・アルプスを歩く (2)

宇都宮 和代

<2>

トレヴィーゾ空港(A. Treviso)に降り立ち、構内の窓口でレンタカーの手続きをする。窓口氏はキーを渡してくれたなり、「自分で取りに行け」。500mほど歩いて、行った。いっぱい並んでいる、車が、だ。係員?誰もいない。どうする?うろうろしていたら先ほどの窓口氏がたまたま、という感じで通りかかる。「この辺の車だよ」。なるほどね…で、荷物を積んだ、乗った、出発した。頭がおかしくなりそうなほど暑いから、碌に計器だって調べる気がしない。なんとかなるだろうし、考えてみればここはイタリアだ…ちょっと国境を越えただけで、気分さえ心なしアバウトになったのは、いいことかもしれないし、気楽に行きたい、いや、いければいい。ヴェネチア市内方面でなくその反対側へ、つまりヴェネト州を一路北上する。車は小型車、それなりにきれい。ナビはついてないけどクーラーはそのうちちゃんと効いてきたし、ペダルから足をはずすとなぜかエンストばかりするけど、すぐまた始動してくれるし…(注:二日目からは慣れたせいで問題解消。燃費も悪くなかった=こちらのガソリンは高いのだ。)夕方に着陸したから、その夜はコネリアーノ(Conegliano)に投宿。中国から来たツアー客(ヴェネチアに行く人たち)と重なったせいで、間違われてちょっとした目にあった。朝食時、入り口でウエイターに遮られて「どうぞあちらからお入りを…」。団体客が食堂の奥の方に押し込められて別メニューだなんて、その昔、私にも何度か経験がある。エレベーター内に張り紙もあった。「請安静!!」こちらはツアー・コンダクター氏の仕業だろう。眺めていたらホテルの従業員が「彼らは感じがよくない」(Sono cattivi!)と強い口調で一言。騒がしい、と言いたいのだろう。これまた我ら同胞(日本人ツアー客)の二昔前の姿そのままだ。

8月半ばを過ぎでも依然として、これからヴァカンスだ、という家族も少なくないのか、道は高度を上げるにつれ、渋滞気味になる。やがて車窓から、この地方特有の山々が、石灰色の切り立った、そしてごつごつと険しいドロミテの山々が姿を見せ始める。やあ、来たぞ、来たぞ!幹線を外れてからは清流沿いに上流へ。ところどころに散在する集落の、その家々のベランダに咲き乱れる赤い可憐な花々が華やぎを増す。観光産業が生業の中心になり得て以来、長年の貧困から脱却できたこの地域が盛期に入ったときの、一種独特の小奇麗な、たとえ人けがなくて静かでも、どこか活気漂う雰囲気が一気に押し寄せてくる。

Monte Pelmo (3168 m)
今回、ネットで予約ができたのは標高840mのフォルノ・ディ・ゾルド(Forno di Zoldoという小さなVal di Zoldo)と呼ばれる一帯にある。明峰ペルモ山(M. Pelmo 3168m)へは、その前進基地になる。ドロミーティ山塊は「青白き山々」(Monti pallidi)と評されると聞く。山麓から途中までは草木がびっしりと生い茂り一面の緑でも、頂上に近づくはるか前から突如変貌し急傾斜と化し、白い絶壁のみ屹立して容易に人を寄せ付けない。歳月が、そうして雨風が、余計なものを洗いざらいそぎ落としてしまって、残ったのは堅い岩ばかり、とでも言うべきこの一帯に特有の山容が、あちらでもこちらでも……。たとえ標高が3000mそこそこでも我ら初心者を十分すぎるほど威圧し堪能させてもくれて飽きさせない。そうだ、触れたかったのは、まさにこの眺めだ。
町のレストラン付プチホテル(イタリアン・レストランが民宿も兼ねていて、庶民的なオーベルジュといったところか)で、ドロミテ山中の、ゾルド渓谷(実のところ、出発前に日本で、主にネットを頼りに情報を集めたものの、全容がなかなかつかめなかったのがこの地域だった。図書館や書店で資料を探してもあまりうまくいかない。よい地図も手に入らない。だから、出たとこ勝負の旅になりそうだったし、本当に行けるかどうかも、実のところ不明なまま出国せざるを得なかった。結果からいえば、旅のそもそもの動機になった紀行文(角田光代著『あしたはドロミテを歩こう』-イタリア・アルプス・トレッキングー、岩波書店 2004刊)で紹介されて以来憧れた山や地域―トレ・チーマ、コルティーナ、サッソ・ディ・ストーリア (Tre Cime di Lavaredo 2998m, Cortina d’Ampezzo 2327m, Sasso di Storia 2183m) ーのいずれとも縁が持てなかったばかりか、名高いトレ・チーメ(三つの頂=山頂のとんがりが三つある)など垣間見ることさえままならなかったのだから、一人前の顔をしてこの地域について何か書く資格は私にはまだないのが本当のはなしだ。「(このエリアは)入り組んでいるため理解しにくい」と(ネットで)教えてくれた人がいるが、まさにその通りだ、と書くと言い訳めくが仕方がない。

何も知らないでやってきた、では、動きがとれない。翌朝一番に、どんな小さな町にも必ずある観光案内所に飛び込んで教えを乞う。「日帰りで6時間以下、標高差600m程度、シニア向けのトレッキング・ルートを教えてください!」事務所は閑散としていて訪問者は我々だけ。退屈していたらしい係員はとても親切。こことそこと、あそこにしなさい。。。詳しい地図もガイドブックも手に入った。かくして、その程度の条件ですら「歩き通せる自信がない、ヤダ」とこの期に及んでも尻込みばかりする同行者のお尻を叩いて車で出発することにした。

関東近辺のトレッキングが富士山を見たがるように、スイスでのトレッキングが例えばマッターホルンを正面から、横から、そして後ろから眺め楽しみつつ歩けるようにルート設定をしているのと同様に、この辺りでは要するに、雄々しくも富士山の如く、或はマッターホルンの如く孤独に屹立するペルモ山の周囲をあれこれ手を変え品を変え迂回するのが、本格登山ならぬ、ただの山好きの醍醐味となる。まずは「ケーブルで登れるから楽だよ」と教えられたコルダーイ山(Monte Coldài, 2403m) 方面へ。案ずるより産むがやすし。目的地のコルダーイ小屋(Rifugio « A. Sonino » al Coldài 2132m)まで標高差は620m。周囲は家族総出の登山客でいっぱいである。一歳になったかならないかの赤ん坊を山用の背負子で背負った父親があちらにもこちらにも…やあ、犬もいる。何匹もいる。声高に聞こえるのは全部が全部イタリア語。あらまあ!何よりびっくりしたのが、彼らの出で立ちだ。軽装、なんてレベルではない。登山靴だけはみな立派だが、短パンに上半身裸の男たち、何度眺めてもあれは本物の水着(ビキニ)に違いない、と思える半裸の中年女性。当然のこと、みな顔も背中もすでにおそろしく黒光りしている。かたやこちらは長ズボンに長袖シャツ、焼けたくないから首にもタオル、おまけに思いっきり幅広の麦わら帽子までかぶっている。こんなのは私一人だからして、たいそう目立つ。目立つけどそんなことかまってはいられない。これ以上のシミと皺はフルフル嫌だ、願い下げだ。それにしてもここは海辺じゃない。日光浴も兼ねるのが彼らの山登りだなんて、私は知らなかった。

雲一つない炎天下、日陰もなく乾ききった岩場ばかりをひたすら登りに登り、それでもわずか一時間半で山小屋に到着した。着いたとたんに女の子が、ボーイフレンドと二人でやってきた十代とおぼしきその子が人目もものかわ、汗みずくになったTシャツを脱ぎすてる。当然、残るはブラジャー一枚!もちろん炎天下のできごとで、周囲は一息ついた登山客でいっぱいだ。あらまあ!そりゃあ顔も下着も可憐で可愛いけど…ついでに書くと、その翌々日、別の山中で、60代くらいの恰幅のよすぎるおばさんが、全く同じことを……。
Rifugio al Coldài (2132m) 付近のイタリア人登山者たち
その胸元は今も瞼に鮮やかに甦るほど巨大だったわァ……。さてここコルダーイ小屋はとても立派な山小屋で、食事もできる、というかちゃんとしたレストランがある。でも我々はコーヒーだけ頼み、あとは朝ごはんの時にこっそり作成したパニーニと持ち去った果物とでお昼ごはん。澄みわたった青空と雄大な山並みを楽しもうかー。なのに、わが目はその期に及んでも周囲の人々の様子ばかりに吸い付いてしまう。大型犬がいる、おとなしいけどその威厳は辺りを睥睨せんばかり、あっ、シャツを干してるぞ、あら、あんなにアルコール飲んで大丈夫なの?エトセトラ、エトセトラ。山の初日はヴァカンス気分満載で過ぎた。
宿の食堂
帰り途。ケーブルには乗らず歩いて下山する。人通りはまばらだ。しめて6時間。やっぱり疲れた。車で宿に向かうその道路沿いにはおしゃれでこぎれいな店がちらほらと。ジェラートを買うべくお店を探す。あった。同じの思いのヴァカンス客が、打ち合わせを兼ねたビネスマンたちも集まってきて、行列ができた。宿の夕食は日替わり定食で、宿賃は二食付きで一日6500円(飲み物別)。この地方の郷土料理ばかりでとてもおいしい。イタリアは料理にはずれのない国だ。川に面した窓際は老夫婦の定席で、つかまり歩きしかできない夫に付き添う妻と宿の女性が二人して慣れた風情であれこれと世話をする。あちらの席では昨夜は一人ぼっちで食事をしていたおじいさんを囲む祝の宴が始まった。この夜のためにはせ参じた息子、娘夫婦や孫たちと、うれしそうに語らっている。けれどその翌日からまた一人ぼっちに戻ってしまった。これもまた人生だ。
Forno di Zoldo (840m)の町
 Maè川右手が宿舎、遠くに見えるのはDolomitiの山々

 I SENTIERI DI ZOLDO -  LAGO COLDAI (2143m)

  • Difficoltà: facile, anche per bambini
  • Tempo: 3-4 ore AR
  • Dislivello: 620 m
  • Segnaletica CAI: 564, 556
  • Acqua: sì
  • Posti di ristoro: bar-ristoranti a Palavèra, rifugio Casèra Bosconero
  • Punto di partenza: sp 251 a Palavèra
  • Anche invernale (CASPE): si  



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