日本語でも、あるいはイタリア語でも、言葉には多くの意味があります。例えば「太陽」「海」「泉」「広場」「道」などは、元々の意味だけでなく、何かを象徴するようにも使われていますよね。
『全ての道はローマに続く』という有名なことわざは、もちろん、みなさんご存知でしょう。この言葉はイタリアの文化に関わる故事に由来するもので、17世紀のフランスの詩人ジャン・デ・ラ・フォンテーヌが書いた作品に出て来ることで知られています。実際のところ、かのローマ帝国は、アッピア街道を始め、カッシア街道、フラミニア街道、ティブルティーナ街道など多くの道が作られ、各地とローマを結んでいました。ちなみに、イタリア語の辞書には、この言葉は「物事はひとつのものに集中する」という意味を持つ、とも記されています。
私はこの言葉がとても好きで、自分を支えてくれる大切な言葉として深く心に刻んでいます。というのも、この言葉を思い出すと、まるで開いた窓から新鮮な空気が入ってきた時のように心地良く感じ、勇気を与えられたような気持になるからです。
via Aurelia, foto da internet |
先に『全ての道はローマに続く』という言葉は「物事はひとつのものに集中する」ということを意味する、とお伝えしましたが、この言葉にはもうひとつ意味があることはご存知でしょうか。私はそれまで全く知らなかったのですが、ある時、イタリア語の先生からそのことを教えられ、心が揺さぶられる思いでした。「ローマに続く道はたくさんある、だから、たとえ道に迷っても、途中で道を変えても、歩き疲れて立ち止まってしまったとしても、歩き続きさえすれば必ず目的地にたどり着くことができる。大事なのはあきらめてしまわないことだ」、先生はそう話してくださったのです。
この意味を知った時、実は私は、イタリア語を学ぶことに少し疲れていました。もともとはイタリア史やイタリア文化、そしてイタリア人のメンタリティといったものに興味をもち、単なる好奇心からイタリア語を学び始めたのですが、全ての文法を学び終わっても、語彙は乏しいままで、イタリア語を流暢に書いたり、話したりなどできるわけもなく・・、やりきれない思いを抱いていました。イタリア語は私には難し過ぎる、仕事に必要なわけでもないのに、イタリア語を学ぶことにどんな意味があるというのだろう・・。頭に浮かぶのはそんなことばかりで、何度も何度も、もうイタリア語はやめようと考えました。
アッピア街道(ローマ市内) CC 表示-継承 3.0 via ウィキメディア・コモンズ |
これは私が決して忘れることの出来ない大切なエピソードです。私は今、同じようなことが「人生」にも言えるのではないか、と感じています。たとえ道に迷っても、途中で道を変えても、歩き疲れて道半ばで立ち止まってしまったとしても・・、そこで何かを感じたり、気付いたりすることはあるはず。そして、そんな経験を得て、また心に抱いた『ローマ』を目指して歩き始めることが、何より大切ではないでしょうか。だからこそ、ここにいらっしゃるみなさんに、改めてこの言葉を贈りたいと思います。 『すべての道はローマに続く』。
イタリア語へ
一色映里
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